【略略茶酔日記】堅田真衣

「略略茶酔日記」は、茶葉を送ってその茶を飲んだ日の日記を書いてもらう、茶葉と日記の交換企画。茶葉の名前や説明は一切伝えず、自由に飲んでもらいます。日常の延長線上でカジュアルに茶を楽しむ「現代の茶の略」の実例を収集するシリーズです。


2月12日

郵便受けに、人間ドックの知らせやマンションの管理組合からの書類が届いている気がする。管理組合からの書類はたぶん早めに確認して返送とかをしたほうがいい。いつも余裕がないと郵便受けを見なくなってしまう。やることが増えそうだから。開けないうちは届いていない。(シュレーティンガーの猫方式)

そういえば以前人から「あまり郵便受けを見ない人なんですね」と言われたことがあった。それまで郵便受けを見る頻度を意識したことがなかったので、そうなのか、と思った。私は1、2週間に一度見るか見ないかだけど、たしかに人によっては毎日チェックしてますってこともありそう。 

日頃あえて人とすり合わせないような個人の習慣の違いはきっと色々ある。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という本があったけど、余裕がなくなるとやらなくなることは色々ある。読書、自炊、洗濯、散歩、湯船につかること、郵便受けを見ること...ほぼ生活そのものだなとゾッとする。気になってきて郵便受けを見にいくと、諸々の郵便物とともに「茶葉在中」と書かれた一通がある。雑多な書類やDMの中で一拍の休符というか、余白のような存在感を放っている...持ち帰って開けると3種類ほど違う茶葉の小袋が入っていて、さっそくひとつ適当に選んで飲んでみる。普段はお茶は大きなマグカップでかぶかぶ飲むのだけど、せっかくなので小さな急須と杯で淹れる。おいしい。

3月18日

お茶が届いてからしばらく経った。ふと思い立って茶盤で茶を飲む。これまで茶盤でお茶を飲む時は、それ以外には基本とくになにもしていなくて、ぼーっとしていたり、人とおしゃべりしていたりって感じだったのだけど、今日は茶盤を傍に置いて仕事をしてみる。お茶をいれて、メールを打って、飲みながら資料を探して。このリズム感は結構いいかもしれない。 

夜はご近所の友人がもう一人別な友人を連れて遊びにきてくれた。パートナーがギリシャ人であるらしく、ギリシャの家庭料理を振る舞ってくれ、それがとてもおいしかった。ネギやほうれん草やハーブがいっぱい入ったおかゆみたいな料理。茶盤にも興味を示してくれていたけど、時間がなくて夜は茶には至らなかった。また今度。

4月6日

Daily Practice Booksのオープン日。せっかくなのでもらった茶を淹れる。やはりひとりの時はなんとなく勿体無い気持ちがして、家にあるティーバッグの茶などを飲んでいた。お茶があると、そこに場ができる感じが好き。ふんわり立ち上がってくる感じがいい。

6月20日

また随分日があきました。お茶は相変わらず飲んでいたのだけど、日記を書くのは慣れないというかどうにも億劫になってしまう。今日は一日家で仕事の予定で、ちょっと時間にも余裕があったので、久しぶりに茶盤を傍に置いて作業、というのをやる。まず送ってもらった茶のうちの一つを淹れて飲み、それから以前に景太郎くんにもらった中国紅茶の茶葉でお茶を淹れた。茶玩具には、先月行っていたブラジルで買ったきた石の犬の置物を使ってみた。なかなかかわいい。ブラジルの余韻も戻ってきて、なんだか気分がいい日だった。

7月11日

雑誌の取材があって、朝9:00から編集者さんたちがうちにきた。取材では本と本屋にまつわるインタビューがあり、思い入れのある本の紹介があり、読書のお供はなんですかというのもあった。私は読書時も仕事中もいつもお茶をがぶ飲みする派なので、いつも使っている大ぶりのマグカップを事前ヒアリングで挙げていた。そのマグの写真を撮らせてくださいということで、せっかくならお茶をいれようとマグカップにお茶をいれた状態で撮影してもらい、その後ライターさんと淹れたお茶を飲んだ。昨日は下北沢での友人のライブに遊びに行った後、深夜まで同行の友人の引越したての新居で飲んでいたのと、慣れない取材が終盤に差し掛かった安心感もあり、お茶が沁みた。

7月24日

毎日暑すぎて、あまり熱いお茶を飲む気にならない日が続いていたのだけど、お中元においしそうな(そして高級そうな)クッキー缶を送ってくださった方がいて、これはお茶といただかねばと、久々に茶盤でお茶を飲む。クッキーは冷蔵保存していたので、ほんのりひんやりしていて、なんだかとてもいい組み合わせだった。これは明日からもやろうと思う。

夜は友人とご飯を食べる約束をしていた。事前にどこがいい?ときかれ、先週韓国に行っていて韓国料理がおいしすぎた余韻があったので、「韓国料理」と答えたところ、新大久保で待ち合わせることになった。友人の友人も来ることになり、その友人の友人が新大久保でちょうど見たかった展示があるということで、まず新大久保のホワイトハウスというギャラリーにその展示を見に行ったあと、サムギョプサルを食べに行った。盛り上がってその足でカラオケに行き、そのあとうちにきて、結局ふたりとも泊まっていった。いい夜だった。朝起きると友人の友人(便宜上そう書くけど昨晩を経てもう友人だと認識しています)は書き置きを残してすでに去っており、残った友人とお中元のクッキーを食べるなどした。お茶はいれなかった。午後までおしゃべりなどする。

7月25日

先日の取材記事の原稿を編集者さんが送ってくださった。読書のお供としてのマグカップが他の人の取材内容と被るかもというのがあり、あの日代替案として、いつも使っている栞も撮影してもらっていたのだけど、記事を確認すると栞のほうが採用されていた。実際、栞は結構読書のムードを左右するような気がしている。直近の買い物のレシートとか、どこかのお店のショップカードとか、本の読み初めに近くにあったものが栞になることも多い。後になって久しぶりに本を開くと、その時栞として使っていた映画の半券なんかが落ちてきていろんな記憶が蘇ったりするのもたのしい。今は8月の読書会に向けて『茶の本』と『灯台へ』を読んでいる。まずは開催が近い『茶の本』から優先的に進めている。『茶の本』は今まで文庫版のものを持っていたけれど、読書会に向けて調べなおしたところ、淡交社から出ている茶の本の装丁がとてもかわいくて、今回はそれを購入して読んでみている。

7月31日

『茶の本』と『灯台へ』に加えて、8/9に『踊る自由』という詩集でも友人と読書会をすることになったので、それも新たに読み始めた。以前友人宅で少し読ませてもらってすごく惹かれたのだけど、引き続き心を掴まれて唸りながら読み進めている。お茶で心を落ち着かせながら、読んでいるとお酒でも飲みたいような気持ちにもなってくる。今日は会社に行く用事がある日なので、後ろ髪をひかれながら身支度して家を出る。用事が終わると15時半で、外はまだ日差しも強かったけど、風があって比較的過ごしやすい感じだったので、赤坂から自宅まで歩いて帰る。途中青山霊園に寄り道して散歩する。墓地のベンチで寝ているホームレスと思しきおじさんがいて、あとは誰にも会わなかった。詩集のことやクワロマンティックのことを考えながら家に着いたのは18時近くだった。

堅田真衣

グラフィックデザイナー/アートディレクター。渋谷区・広尾でブック・コミュニティ「Daily Practice Books」を週末中心に運営しています。最近は一日一万歩を目標に毎日散歩しています。

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送ったお茶たち

① 白茶・銀針白毫
② 岩茶・不見天
③ 台湾・凍頂烏龍茶

※ 以前あげた茶:紅茶・九曲紅梅


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